youといえば、「あなた」とか「あなた方」という日本語になる。
自分のことを言う時には I、自分たちは we、
彼や彼女はそれぞれhe とshe、
複数になれば they になる。
ところがyouだけは、単数も複数も同じ。
ものごとをはっきりしたい傾向の強い英語の中で、
このyouだけがひとりなのか複数なのか
わからない仕掛けになっている。
それなのに、実際の英語にはyouがしょっちゅう出てくる。
英語の中でも、最も目立つ活躍をするスター級のyouと、
日本語の「あなた」の間には、どんな違いがあるのか。
名作といわれる作品と、その日本語訳を比べてみよう。
例えば誰でも知っているヘミングウェイの「老人と海」、
あの作品で最初のyouは、こんなふうに出てくる。
84日間も一匹の魚も釣れずに過ごしている老人に、
少年が言う。
I could go with you again.
この部分の日本語訳は、このようになっている。
「またいっしょに行きたいなぁ」
日本語訳には、youのかけらも見当たらない。
またいっしょに海に出たいと思っている少年は、
親の反対を覚悟で老人を説得しようと、このように言う。
Can I offer you a beer on the Terrace and then we'll take the stuff home.
「テラス軒でビールをおごらせてくれないか。
道具はその後で運べばいい」
ここでもyouは、日本語訳の中にいっさい出てこない。
ここでいうテラス軒というのは、
たぶん浜辺に立っているおんぼろあずまやのようなものを、
漁師たちがテラスとシャレのめして言っているではないかと思う。
またここで使われているofferは、
英語のネイティブからすればとても変な言い方で、
たぶんヘミングウェイが、
キューバで使われているスペイン語の訛りを
表すために使った表現のようである。
さらに、ヘミングウェイのこの文章には、
日本では常識とされている約束事と違う点がみられる。
Can I と疑問文の形で始まっているが、
最後にクエスチョンマークがついていない。
特に口語では、あまり文法を意識して
話をする必要はないという一例である。
それはさておき、youは見事に姿を隠している。
その方が日本語としてはスムーズだからである。
福田恒存という人は日本を代表する
英文学者と呼ばれた人であるし、
言うまでもなくヘミングウェイはアメリカの文豪である。
この2人が同じメッセージを読者に伝えるために、
youを処理した方法を比べてみると、
英語と日本語の違いがよくわかる。
ここからひとつのヒントが出てくる。
英語の文章を日本語にするときには、
なるべくyouを訳さない。
これはぜひ覚えておいてほしい。
「あなた」が多い日本語は、とても目障りである。
また、自然な日本語にするためには、
英語によく出てくるyouをなるべく出さないということは、
英語では逆に、youをどんどん使わなくてはならない!
ということになる。
カテゴリ:初級英会話